ひと・こと・わざ

諺などのキーワードから人文系研究を紹介するブログ

【灯台下暗し】身近な人にもまた

こんにちは。
本日は時事ネタに絡めて、【灯台下暗し】を取り上げます。
意味合いとしては、身近な事情は見えづらいということですね。
言わずもがな、大リーガー・大谷翔平選手の一件から思い出した諺です。


個人的に、事件の詳細は、法の下での捜査と裁きの結果が出るまで、とやかく言うべきでないと考えています。
一方、日常の出来事について研究を通して考えることは、人文科学のあるべき姿の1つだろうとも思っています。

 

そこで、信頼関係とリスクの見積もりの関連、という視点で研究を調べ、「まさに」という研究を見つけたので紹介します(きちんと紹介せねばと、以降の説明がやや長めです)。

Cruwys, T., Greenaway, K., Ferris, L., Rathbone, J., Saeri, A., Williams, E., Parker, S., Chang, M., Croft, N., Bingley, W., & Grace, L. (2020). When trust goes wrong: A social identity model of risk taking.. Journal of personality and social psychology. 
https://doi.org/10.31234/osf.io/5fwre.

 

まず概要として、研究者が冒頭部(Abstract)で示した以下の一文を、敢えてそのまま引用してみます。事件の文脈に通じる、強烈な指摘です。

皮肉なことに、これ(論文の結果)は、最も信頼している人が、時として最大のリスクをもたらす可能性があることを意味する

 

真偽を考える材料として、検証方法も掘り下げてみます。
論文に含まれる8つの検討の1つに、(実験室で行なったものではない)実際のイベントの参加者を対象にした調査がありました(研究4)。
イベントは「Schoolies」と呼ばれる、同年にオーストラリアの義務教育を修了した若者が一堂に会するカーニバルです(公式と思われるサイトを発見;大型フェスそのもの→https://www.schoolies.com/what-is-schoolies)。

 

華やかなイメージですが、こうした場に特有のリスクも問題視されているようです。
研究の参加者は、イベントで起きうる以下のような行動に、どの程度リスクがあると思うかを回答しました(実際は他にも回答項目があります)。

  • 海で遊ぶのに、鞄を放置する
  • 見ず知らずの人から飲み物を貰う
  • 一夜の関係を過ごす

その結果、他の参加者を「仲間だと思う」「信頼している」ほど、リスクの評価が低かったのです。


残りの7つの研究では、仲間意識の種類やリスクの種類を変えて検討しています。
追加の分析の結果、そうした検証内容の違いを加味してもなお、上記の結果が得られたと、まとめられています。

 

結果を踏まえたとて、対策を考えるのは、容易ではありません。
当人同士の解決や自分一人の対策は、現実的ではないでしょう。
一人で「裏切られてもいいように対策する」場合、それはもはや、人を誰も信頼しない、という辛い人生になりかねません。

月並みですが、第三者と関わりを活用したり、社会的なシステムでの予防・支援が、対人コミュニケーションのリスクの最適解だろうと思います(その意味で、諸球団側の対応は気になります)

 

とはいえ、3本目の記事にしてようやく、諺を体現するような研究を紹介できました。

人が関わる現象を起点に、その再現やメカニズムを考察する、人文社会系研究の一端を紹介できたかと思います(気になった方は、「質的研究」や「ボトムアップアプローチ」といったキーワードで、詳細を調べられます)。

他のニュースや身近な出来事についても、報道とは別に、研究のレンズを通して考えてみる、という視点をもっていただけると嬉しいです。


もし、モヤっとした気持ちを抱えたままになった読者の方がいらしたら、すみません。
次回は、面白い・気持ちのいい研究を取り上げて、切り替えていければと思います。

ではまた。