ひと・こと・わざ

諺などのキーワードから人文系研究を紹介するブログ

【急がば回れ】「回る」労力は裏切らない

こんばんは。
筆が乗ったので書き切ってしまおうと、初めて夜中の投稿です。

本日は、諺「急がば回れ」を取り上げます。
焦って事を進めるより、着実に進めるのが良いという意味ですね。

 

ブログ主は、仕事で焦ったとき、この諺を思い出すようにしています。
個人的に、速さ×成果よりも、正確さ×過程を重視するほうが性に合うからです。
(なので、『ハイキュー!!』の推しは、烏野の日向・西谷が2トップながら、次いで稲荷崎の北が食い込みます)

 

そして最近、「コスパ・タイパは度外視だが、成果にはつながりやすい活動方法」を扱う研究テーマを知りました。

日本語の訳はいくつかあるのですが「計画的実践(deliberate practice)」などに表現されます。
これが、効果はあるけど労力が要るということで、「急がば回れ」に紐づくかもと思い、紹介していきます。

Ranabahu, N., & Barrett, M. (2020). Does practice make micro-entrepreneurs perfect? An investigation of expertise acquisition using effectuation and causation. Small Business Economics, 54, 883-905. 
→ https://doi.org/10.1007/S11187-019-00157-6

 

詳しい内容に入る前に、計画的実践がどのようなものか説明すると、以下の点「全て」に気を付ける、というものです(論文の説明を意訳しています)。

(a) 達成度が正確に評価できるほど目標を具体化する
(b) 向上心を絶やさずに取り組む
(c) 過程を振り返って改善する
(d) 繰り返し練習することで技術を向上させるため環境を用意する

 

もう少し具体的に、『ハイキュー!!』になぞらえて、バレーボールの練習へ置き換えてみましょう(ちなみに、スポーツも計画的実践の研究対象になっています)。

(a) 狙った所にボールをコントロールでき、試合にも勝てる
(b) うまくなるために、練習に常に全力で、試合も投げ出さない
(c) 日・週・月単位で、練習メニューとその成果を振り返る
(d) 練習の時間と場所を確保して、コーチからアドバイスも受ける

お気づきかと思いますが、趣味の範疇では厳しそうです。
つまり、計画的実践は、効果が見込めるけれど大変なのです。

 

では、こうした大変なことを、どうすれば実施できるのでしょう。
上記の論文では、起業家を対象に調査して、以下の2つのアプローチで実施されると主張しています。

手段型:既に手元にある情報や技術で、関連する市場へ入る
因果型:必要な情報・技術を集め、勝ち筋がある市場へ入る

前者では、息子やその友人のためだけだった誕生日ケーキを作るスキルで商売を始めた、後者では、ローンを上回る収益を見込んでトラクターを買って農業を始める、という例が紹介されています。


論文を読んで、どちらのアプローチでも、当人が成功の見込みを持っていそうだと思いました。
つまり、「やっていけそう」という見込みがあれば、過酷だが効果的な活動を続けられる、という「わざ」が隠れていそうです。
(ビジネスと計画的実践の親和性が高そうという点は気になりますが)


上手くなりたい、成果を得たいと思う活動に取り組む際は、「今の自分の力(手段型)」や「活動に関わる情報(因果型)」を整理することで、「成功のイメージ」を沸かせることから始めると良いかもしれませんね。

 

それでは、今晩はこの辺で。

 

p.s. 「ゴミ捨て場の決戦」、とても良かった

【朱に交われば赤くなる】赤くなりたくないときは

こんにちは。
先週は投稿できず、すっかり新年度になってしまいました。
新年度ということで、今回は、諺【朱に交われば赤くなる】を取り上げます。

周囲の人間関係から、より良くも悪くも影響を受けやすい、との意味合いですね(調べるまで、ネガティブな意味だけと思い込んでました)。

 

心理学にも、この手の研究が古くからあります。
その1つのテーマ「同調圧力(peer presure)」について、よくある現象として、最近も報告が確認できました(たとえば、飲酒の誘いを断りづらい など)

そうした中、大学生がどんな同調圧力を受け、どんな原因と対策があるのか、といった内容をまとめた資料があったのでご紹介します。

 

Liu, Y. (2022). A Survey of the Causes and Effects of Peer Pressure in College Students. Proceedings of the 2022 3rd International Conference on Mental Health, Education and Human Development (MHEHD 2022). 
https://doi.org/10.2991/assehr.k.220704.079

 

この研究ではまず、大学生が体験しがちな同調圧力として、(ポジ/ネガを区別せず)以下のようなものを報告しています。

  • 仲間との活動参加:友人との付き合い、パーティーへの参加、異性関係の追求 など
  • 仲間のルールに従うこと:服装、音楽の好み など
  • 学校活動への参加:学習や課外活動 など
  • 非行:薬物・アルコール、性交渉、窃盗、破壊行為、軽微な違反 など

一部海外らしい内容も含まれていますが、日本の大学生でも、
「自分の好みじゃないけど、友達が好きっていうし...」といった具合に、仲間内の付き合いやルールについては一般的かと思います。

 

そんな同調圧力が、勉強・就職・感情的なストレスにつながると指摘しつつ、
主な原因として、「比較する心情」「アイデンティティの欠如」などを挙げています。

総じて、大学生も心身は発達の過程であり、「自分らしさ」をまだ確立できておらず、
周りと比べた自分を気にしてしまうので、同調圧力を断りづらいといった内容です。

 

こうした原因から対策も提案されてはいるものの、自助努力を促す内容に偏って見えたので、詳しくは取り上げません(概して、「自分らしさ」「自分の価値基準」を持つことで、良し悪しの判断を高めるべき、というものです)。

また、「そうはいっても付き合いが...」というのが現実ですから、すぐ使えるに「わざ」としては、やや導入しづらいものがあります。

 

そこで、ブログ主の個人的な意見として、「複数の所属を持つ」ことを提案します。
大学生であれば、学部学科の友人に加えて、サークル・他大・アルバイト先、社会人であれば、職場以外に、旧知の友人、習い事などでサードプレイスを持つ、といった具合です。
所属を新たに増やさずとも、SNSなどを通じて、過去に付き合いのあった人達や、家族と交流を深めることも、現在の主軸とは別のコミュニティを持つことにつながると思います。

 

この提案の利点は、まず、色々な価値観に触れることができます。
所属するコミュニティが限られていると、価値観も狭くなりがちです。
逆に所属が増えると、多様な価値観を知り、多角的に「比較」できるようになります。

また、少し聞こえは悪いですが、複数の所属は「保険」になります。
あるコミュニティで誘いを断って嫌われても、別のコミュニティの仲間と付き合っていくことができます。
これにより、自分の好みと違えば、考え方・やり方を貫けたり、誘いを断りやすくなるでしょう(そもそも、多様性が認められないコミュニティなら、早々に見切りをつけるというのも、1つの手かもしれません...)。

 

個人的にも、大学で体育会の引退を機に初の定期アルバイトを始めて、この効果を実感しました。
以来、院生時代は、所属以外、専門外の勉強会にも参加したものです。
そうした縁が、研究の視野を広げ、就職につながったこともあり、お勧めできる対策です。

 

さて、今日はこの辺で。2週分という訳ではないですが、長くなってしまいました。
最後までお読みいただきありがとうございます。

皆様の新生活、特に大学生・新入生の新学期が、健やかなものになりますように。

 

 

p.s. 今回取り上げた研究を「資料」と呼んだのは、「学会発表」だったためです。
他の研究者からの指摘(査読)を受けて刊行される「論文」と異なり、多くの学会発表は誰でも刊行可能です(査読の無い論文や、査読がある学会発表もあったりはしますが)。

成果をまとめた研究者に敬意は表しつつ、内容の信ぴょう性については、慎重になるべきと言えます。

【灯台下暗し】身近な人にもまた

こんにちは。
本日は時事ネタに絡めて、【灯台下暗し】を取り上げます。
意味合いとしては、身近な事情は見えづらいということですね。
言わずもがな、大リーガー・大谷翔平選手の一件から思い出した諺です。


個人的に、事件の詳細は、法の下での捜査と裁きの結果が出るまで、とやかく言うべきでないと考えています。
一方、日常の出来事について研究を通して考えることは、人文科学のあるべき姿の1つだろうとも思っています。

 

そこで、信頼関係とリスクの見積もりの関連、という視点で研究を調べ、「まさに」という研究を見つけたので紹介します(きちんと紹介せねばと、以降の説明がやや長めです)。

Cruwys, T., Greenaway, K., Ferris, L., Rathbone, J., Saeri, A., Williams, E., Parker, S., Chang, M., Croft, N., Bingley, W., & Grace, L. (2020). When trust goes wrong: A social identity model of risk taking.. Journal of personality and social psychology. 
https://doi.org/10.31234/osf.io/5fwre.

 

まず概要として、研究者が冒頭部(Abstract)で示した以下の一文を、敢えてそのまま引用してみます。事件の文脈に通じる、強烈な指摘です。

皮肉なことに、これ(論文の結果)は、最も信頼している人が、時として最大のリスクをもたらす可能性があることを意味する

 

真偽を考える材料として、検証方法も掘り下げてみます。
論文に含まれる8つの検討の1つに、(実験室で行なったものではない)実際のイベントの参加者を対象にした調査がありました(研究4)。
イベントは「Schoolies」と呼ばれる、同年にオーストラリアの義務教育を修了した若者が一堂に会するカーニバルです(公式と思われるサイトを発見;大型フェスそのもの→https://www.schoolies.com/what-is-schoolies)。

 

華やかなイメージですが、こうした場に特有のリスクも問題視されているようです。
研究の参加者は、イベントで起きうる以下のような行動に、どの程度リスクがあると思うかを回答しました(実際は他にも回答項目があります)。

  • 海で遊ぶのに、鞄を放置する
  • 見ず知らずの人から飲み物を貰う
  • 一夜の関係を過ごす

その結果、他の参加者を「仲間だと思う」「信頼している」ほど、リスクの評価が低かったのです。


残りの7つの研究では、仲間意識の種類やリスクの種類を変えて検討しています。
追加の分析の結果、そうした検証内容の違いを加味してもなお、上記の結果が得られたと、まとめられています。

 

結果を踏まえたとて、対策を考えるのは、容易ではありません。
当人同士の解決や自分一人の対策は、現実的ではないでしょう。
一人で「裏切られてもいいように対策する」場合、それはもはや、人を誰も信頼しない、という辛い人生になりかねません。

月並みですが、第三者と関わりを活用したり、社会的なシステムでの予防・支援が、対人コミュニケーションのリスクの最適解だろうと思います(その意味で、諸球団側の対応は気になります)

 

とはいえ、3本目の記事にしてようやく、諺を体現するような研究を紹介できました。

人が関わる現象を起点に、その再現やメカニズムを考察する、人文社会系研究の一端を紹介できたかと思います(気になった方は、「質的研究」や「ボトムアップアプローチ」といったキーワードで、詳細を調べられます)。

他のニュースや身近な出来事についても、報道とは別に、研究のレンズを通して考えてみる、という視点をもっていただけると嬉しいです。


もし、モヤっとした気持ちを抱えたままになった読者の方がいらしたら、すみません。
次回は、面白い・気持ちのいい研究を取り上げて、切り替えていければと思います。

ではまた。

【思い立ったが吉日】諺には「二卵性双生児」が多い?

こんにちは。
今回は【思い立ったが吉日】という諺を取り上げます。

何かを始めるのには、やろうと思ったその日が良い、という意味合いと捉えています。
先日の初投稿で「新しい事を始める時期」という言葉を引用した際、本当か…?と思い、調べてみました。

 

例えば…
「やりたい」と思った日に始めたほうが、他の事/人より「成功」しやすい
「やりたい」と思った日に始めたほうが、長く続けられる
といった結果が示されれば、この諺は的を得ていると言えるでしょう。

 

ただ、そうした研究を見つける前に、「同じ意味だけど違う表現の諺がある」ことをまとめた論文に行き当たりました。
タイトル「二卵性双生児」は、この状態が、兄弟ともクローンとも、一卵性の双子とも違うなと考えた末なのですが、ともかく中身が面白かったのでご紹介します。

鄭 芝淑 (2008). ことわざの異形. 多元文化. 8, 349-364. 
https://doi.org/10.18999/muls.8.349

 

検索にヒットしたのは、「思い立ったが吉日」が例に取り上げられていたためでした。
(なお「日本語の心理学論文は無かった」という粗い検索結果はこちら→リンク

まず面白かったのは、その数です。なんと11個。多い。
表現も多様です。なかでも、随分違うと感じた例を、2つ紹介します。

  • 百里の道も一歩から
  • 千里の行(みち)も足下(そっか)に始まる

百里」は到達点がだいぶ手前な気がしますし、「足下」を踏み出してさえいない時点だとすれば道のりは長いなと...。
他にも、諺「井の中の蛙大海を知らず」の別表現が10個あること、変化の種類の整理、諺の日韓比較など、とても知的好奇心をくすぐられた論文でした。
(ちなみに似て非なる表現の諺同士を「異形」と呼ぶようです;かっこいいですね)

 

率直な感想は、人が「大事だな」と感じたことは、伝言ゲームで表現は変われど、広く長く引き継がれるのだろう、ということ。
直感的には、早く始めるほど、メリットがありそうですものね。

一方で、人文系研究が持つ、一概にそう言い切れない結果に出会えるおもしろさと、仮説を実証する難しさを思ったりもします。
(諺でも「急いては事を仕損じる」と言ったりもしますし...)

 

今回はこの辺で。
「思い立ったが吉日」を検討した研究があるかは、別の機会に改めて取り上げてみることにします。

素朴な予測としては、「始めなかった後悔が記憶に強く残る」のではないか、と思っています。

 

ではまた。

【千里の道も一歩から】記念すべき初記事

こんにちは。一角羊です。
記念すべき初記事です。

「初回」という言葉から真っ先に思い付いた故事成語、【千里の道も一歩から】を取り上げてみます。
いきなり諺ではないですが、そこはご愛嬌ということで。

 

遠き道のりにも初めの一歩がある。
大きな目標を達成するのには、身近なところから取り組む。
そのような意味と捉えています。

まもなく新年度。新しいことを始めてみよう、と考える方もいるかもしれません。
ただ、上手くなるまでに飽きてしまうことも、往々にしてありますよね(このブログも、そうならないように願いつつ...)

 

そこで、活動への興味を増やす方法について調べた研究を紹介します。
上手くできなくても、活動自体を楽しめるよう工夫して、長く続けられるようにする、という応用が期待されます。

Green-Demers, I., Pelletier, L. G., Stewart, D. G., & Gushue, N. R. (1998).
Coping with the less interesting aspects of training: Toward a model of interest and  motivation enhancement in individual sports. Basic and Applied Social Psychology, 20(4), 251-261.
https://doi.org/10.1207/s15324834basp2004_2
(ちなみに上記のリンクは「DOI」と言って、論文に直接アクセスするものです)

 

この研究では、スポーツを題材に、次のような3つの方法が、興味や意欲を高めると主張しています。

  • 自分で「課題」を設定すること
  • 課題に「バリエーション」を持たせること
  • 課題達成の「根拠」をもたせること

ブログ執筆に例えるなら、次のような具合でしょうか。

  • 記事のわかりやすい表現に努める(課題の設定)
  • 1つの記事にかかる時間も早める(課題のバリエーション)
  • そうすると「面白い記事」が「沢山」書けるようになる(根拠)

個人的には、「根拠」を持たせる方法に、可能性を感じます。
単にサブゴールをたてるだけでなく、それに意味があると、自分を納得させるということですね。

ただ、この研究は発表されたのが古いので、新説があるかもしれません。
読者の皆さんの反応等を参考に、新しい研究も探してみるか、考えてみます。

 

それでは、初記事はこのくらいで。
千里よろしく、1000記事に達するまで、頑張れますように。

【ごあいさつ】ブログ立ち上げ経緯など

はじめまして。
ブログ主の一角羊(いっかくよう)です。


このブログでは、各回、諺(ことわざ)を中心に、故事成語、四文字熟語、慣用句の1つをキーワードとして、日常の出来事にまつわる人文科学系の研究・論文を紹介していきます。

 

いきなり堅苦しい単語が羅列していますので、どのような経緯でブログ立ち上げに至ったのか、背景を紹介します。

 

心理学徒としての経験から

ブログ主は、学部・修士課程・博士課程で心理学に携わり、自分でもいくつかの研究を発表してきました。

 

自分の研究とは別に、研究を調べたり、他の研究者と話したり、参加した学会で発表を聞くうち、人文科学系の研究には実生活に役立つものがあるなと感じました。
(そうでもない研究も勿論ありますが)


しかし、自然科学系の研究やその成果に比べて、多くの方は、人文系の研究に接する機会が少ないかもしれません。

あるいは、「人文科学は怪しい」「今一つ信じられない」と、懐疑的な目を向ける人もいるでしょう。


対して、たとえば諺は、広く人々に認知され、「確かに」と頷いたものが、誰しも1つはあるはず。

ブログ主も、「諺を裏付けるような研究があるな」と、感じることが度々ありました。


そこで、多くの方になじみのある「ことわざ」を入り口に、日常とのつながりを紹介する場があれば、人文科学系の研究がもう少し身近になるのではと、当ブログを開設するに至りました。

 

ブログ名の由来とコンセプト

ブログ名は、背景とコンセプトから、以下の意味を込めた造語です。

  • ひと:人文系の研究対象「ヒト」と、「ひと (つ)」のキーワード
  • こと:「こと (わざ)」と、取り上げる日常の「(出来) 事」
  • わざ:「(こと) わざ」と、研究から得るヒントの「技」

 

具体的なコンセプトして、今後の記事では、

  • ブログ主の身の回りの出来事
  • 世間や身近で起きた出来事

から思い起こされた諺などを取り上げて、関連する(というより関連付けて)学術研究を紹介していきます。

 

ご愛読よろしくお願いします

更新頻度はあまり高くない予定ですが、当ブログを通じて、人文系論文の知見が読んでくれた方の役に立ち、その暮らしが少し良い方向へ進むことがあれば嬉しいです。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

今後とも、筆者・読者として、長いお付き合いになれば幸いです。

 

一角羊

 

p.s. ペンネームについてもこだわりがあるので、そのうち記事にすると思います笑