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諺などのキーワードから人文系研究を紹介するブログ

【思い立ったが吉日】諺には「二卵性双生児」が多い?

こんにちは。
今回は【思い立ったが吉日】という諺を取り上げます。

何かを始めるのには、やろうと思ったその日が良い、という意味合いと捉えています。
先日の初投稿で「新しい事を始める時期」という言葉を引用した際、本当か…?と思い、調べてみました。

 

例えば…
「やりたい」と思った日に始めたほうが、他の事/人より「成功」しやすい
「やりたい」と思った日に始めたほうが、長く続けられる
といった結果が示されれば、この諺は的を得ていると言えるでしょう。

 

ただ、そうした研究を見つける前に、「同じ意味だけど違う表現の諺がある」ことをまとめた論文に行き当たりました。
タイトル「二卵性双生児」は、この状態が、兄弟ともクローンとも、一卵性の双子とも違うなと考えた末なのですが、ともかく中身が面白かったのでご紹介します。

鄭 芝淑 (2008). ことわざの異形. 多元文化. 8, 349-364. 
https://doi.org/10.18999/muls.8.349

 

検索にヒットしたのは、「思い立ったが吉日」が例に取り上げられていたためでした。
(なお「日本語の心理学論文は無かった」という粗い検索結果はこちら→リンク

まず面白かったのは、その数です。なんと11個。多い。
表現も多様です。なかでも、随分違うと感じた例を、2つ紹介します。

  • 百里の道も一歩から
  • 千里の行(みち)も足下(そっか)に始まる

百里」は到達点がだいぶ手前な気がしますし、「足下」を踏み出してさえいない時点だとすれば道のりは長いなと...。
他にも、諺「井の中の蛙大海を知らず」の別表現が10個あること、変化の種類の整理、諺の日韓比較など、とても知的好奇心をくすぐられた論文でした。
(ちなみに似て非なる表現の諺同士を「異形」と呼ぶようです;かっこいいですね)

 

率直な感想は、人が「大事だな」と感じたことは、伝言ゲームで表現は変われど、広く長く引き継がれるのだろう、ということ。
直感的には、早く始めるほど、メリットがありそうですものね。

一方で、人文系研究が持つ、一概にそう言い切れない結果に出会えるおもしろさと、仮説を実証する難しさを思ったりもします。
(諺でも「急いては事を仕損じる」と言ったりもしますし...)

 

今回はこの辺で。
「思い立ったが吉日」を検討した研究があるかは、別の機会に改めて取り上げてみることにします。

素朴な予測としては、「始めなかった後悔が記憶に強く残る」のではないか、と思っています。

 

ではまた。